令和2年度 サンマ追加調査の結果について

1.調査について説明

 国立研究開発法人 水産研究・教育機構では、毎年6-7月に、北太平洋海域の日本近海から西経165度の海域において表層トロールによる分布量推定調査を行い、毎年の分布量を推定している。この調査は毎年2隻の調査船を用いて実施しているが、今年は新型コロナウイルスの流行の影響により、1隻の調査船しか用いることができず、東経175度までの海域しか調査ができなかった。また、この調査で採集されたサンマの個体数は、漁獲量が最低となった昨年の採集数を大きく下回った。一方で、今年調査ができなかった東経175度より東の海域にもサンマが分布していた可能性があり、分布していれば10月以降に日本の近海に来遊すると考えられている。このため、本年調査を実施できなかった海域に分布していたサンマが我が国周辺海域に来遊している可能性もあることから、その来遊状況について確認することを目的として調査を行った。

2.調査期間および調査方法

 調査は、北海道大学練習船 おしょろ丸(1,598トン)を用船して、9月26日~10月13日の18日間、北海道道東沖(道東沖)と択捉島から道東の東方沖の公海で行った(図1)。

 調査漁具は表層トロールを用いた。使用したトロール網はNST-340(ニチモウ製)で、サイズおよび目合い構成は6-7月の分布量推定調査で使っているNST-99とほぼ同様である(網口幅約25m、最小の目合17mm、曳網層は0m(表層)~約26m、曳網速度は4.5ノット(時速約8.3km))。このほか、トロール調査の曳網中および調査点間のサンマの分布状況を確認するため、全周ソナー(FSV-30R;古野電機株式会社)および魚群探知機(EK80; SIMRAD)による魚群の確認を行った。全周ソナーは半径1,000m、俯角3°の設定とし、計量魚群探知機(水深0~200mまで観測)と同期を取って使用した。夜間航走中に、サーチライトで前方の海面を照射し、サンマの分布を目視で確認した。

  調査は、9月26日~27日に函館港外で全周ソナーの較正作業を行った後に、9月29日~30日に道東沖で、10月4日~9日に公海で行った。

3.調査結果
(1)分布状況

 表層トロール漁獲試験は合計12回行った。このうち、道東沖では、3回行ったが、サンマは採集されなかった。公海では9回行ったが、このうち7回の調査で合計1,847個体(212.6kg)のサンマが採集された。このうち、43度31分、153度40分(表面水温15.9度)の調査点(St.7)では最も多い592個体(66.0kg)が、次いで42度21分、151度34分(St.12)では518個体(60.8kg)のサンマが採集された(図2)。サンマが採集された調査点の表面水温は15.6~17.4℃であった。なお、サンマが漁獲された海域では外国船によるサンマ漁船の操業は確認できなかった。

 夜間航走中に目視調査によりサンマが確認された海域は公海のみで、道東沖では確認できなかった。公海で確認された個体数は極めて少なく、1時間当たり最大でも43個体であった。また、この調査により確認されたサンマは単独で遊泳しており、群れとして確認されることはなかった(図3)。

 全周ソナーでは、サンマが最も多く採集されたSt.7(43度31分、153度40分)を含みサンマが採集された調査点では密度が高い魚群は確認できなかった。一方、マイワシ、サバ類が主体であった道東沖の調査点では密度が高い魚群が確認された(図4)。

(2)採集されたサンマの体長・年齢組成

 採集されたサンマは100個体を上限に、体長と体重の測定を行った。採集されたサンマの体長は25.7~32.6cm、体重は64~166gであった。サンマの体長組成は30cm台(30.0から30.9cm。以下同)が最も多く38.7%を占め、次いで29cm台が25.7%、31cm台が14.1%を占めた。体重組成は110g台が26.9%、120g台が22.0%、100g台は18.0%であった(図5)。なお、本調査において最も体重の重い個体は160gを超え、130g以上のサンマも14.0%含まれていた。6-7月の調査時においては120g以下のサンマしか採集されておらず、これらは6月以降の成長を考慮しても130g台に達するものは少ないと考えられることから、これらの体重の重い個体は6-7月に調査できなかった海域から来遊したものであると考えられる。

  8~12月の漁期において29cm以上は1歳魚と判断されるが、採集されたサンマのうち82.9%が29cm以上であった。29cm以上の割合が最も少ないSt.8(43度28分、153度32分)においてもその割合は71.0%を占めた。

(3)その他の魚種の分布

 表層トロールにより採集されたサンマ以外の魚種は、マイワシ(図6)が7調査点で16,437個体(798.504kg)、サバ類(マサバ及びゴマサバ;図7)が10調査点で 5,817個体(446.106kg)、カタクチイワシが1個体(25g)、スルメイカが2調査点で3個体(489g)であった。マイワシは主に道東沖で、サバ類は道東沖および公海域で採集された。

(4)6-7月の調査以降の魚群の動き

 今年6-7月に実施した調査では、東経165度以東のみでまとまった分布がみられたのに対し、今回は東経151度付近までサンマの分布が確認されたことから、魚群の西方への回遊が確認され、これらの魚群は我が国漁船の主要な漁場に達するものと考えられる。今回の調査で漁獲されたサンマには、6-7月調査の調査海域の外から来遊した魚群も含まれると考えられるものの、その量は少なく、今後漁期後半に向けて漁況はやや上向くが2019年より来遊量は少ないという7月31日の予報が大きく変わることはないと考えられる。魚群は親潮第2分枝に沿って南下していることから今後も漁場は沖合中心に形成されると予測される。

4.調査の総括(所見)

 本調査において第2分枝沿いの公海域にサンマが分布していることが確認されたものの、表層トロール網による採集結果や全周ソナーおよび目視による調査結果から、分布密度は低いと推測された。例年、10月に我が国周辺海域に来遊するサンマは東経175度以東に分布していた1歳魚が主体と考えられていることから、本調査の結果は、6~7月に調査を行えなかった東側の海域においても、1歳魚の分布があったものの、その分布量は少なかったことを示唆しており、7月31日発表のサンマ長期漁海況予報における予測どおり、来遊量は2019年を下回ると考えられる。 なお、本調査の毎日の調査結果は、漁業情報サービスセンターの協力のもとに、翌日までに漁業者へ提供した。最後に、本調査にご協力いただいた北海道大学 おしょろ丸乗組員および関係者の皆様に感謝いたします。


図1 サンマ追加調査における調査点と航跡および調査時の表面水温
 表面水温(10月 4日~10月 5日)は、漁業情報サービスセンターが10月 6日発行の北部太平洋海況速報による。
図2 表層トロール漁獲試験によるサンマ調査の結果
 円の大きさは60分曳網当たり採集個体数、×は採集されなかった調査点を示す。
図3 サンマ目視調査の様子
 船の左舷前方をサーチライトで照らし、照射された海面(1~2m程度の円形)で確認されたサンマの数を記録した。
図4 全周ソナーおよび魚群探知機による表層トロール曳網中の魚群分布
 暖色系の色は魚の密度が高いことを示す。サンマ主体に漁獲されたSt.7ではごく薄い反応だけで密度が高い魚群は確認できなかったのに対し、マイワシ、サバ類が主体であったSt.3では密度が高い魚群が確認された。また、マイワシは水深 20m付近まで分布しているのに対し、サンマは表層にしか分布しないため、魚群探知機には映らなかった。
図5 表層トロールで採集されたサンマの体長および体重組成
図6 表層トロールで採集されたマイワシの個体数
図7 表層トロールで採集されたサバ類の個体数