公表日 2022年2月4日

研究実施者:水産資源研究所 水産資源研究センター 海洋環境部 児玉 武稔ほか


 多波長励起蛍光光度計を利用して、沿岸から外洋までの植物プランクトン群集組成を準リアルタイムで把握する方法を開発しました。当機構のモニタリング定線に応用し、日本周辺海域の植物プランクトン群集組成について調べました。

 この数十年、海水温の温暖化に伴い、海の主要な光合成者である植物プランクトンの量が減っているという報告があります。一方で、光合成で生産される有機物の質は植物プランクトンの種や機能群ごとによって異なるため、植物プランクトンの群集がどのように変化しているのか、という観点も重要です。しかし、群集組成を調べるためには多大なコストと高い専門性が必要であり、近年の無人観測プラットフォームによる観測の活発化などを鑑みても、センサーによる調査の需要が高まっていました。多波長励起蛍光光度計(JFEアドバンテック社製)はその需要を満たす可能性があるものの、海洋観測で一般的に使われる植物色素組成による推定方法とは大きな違いがあることが知られており、信頼度が高い観測手法とは言えませんでした。 

 本研究では、今後の海洋観測への普及を考え、オープンソースのプログラム開発環境下で、多波長励起蛍光光度計から得られる蛍光値を信頼度の高い植物プランクトン群集組成へと換算する方法の開発を進めました。初めに、2019・2020年の2年間で日本周辺海域(黒潮域・黒潮混合域を含む親潮域・オホーツク海・日本海)の計271箇所において、多波長蛍光光度計による観測と植物プランクトンの色素分析を同時に行うことで、「植物プランクトン群集組成が既に分かっている蛍光値のデータベース」を構築しました。次に、このデータベースを利用して、新規に得られる蛍光値を分解・再構築し、植物プランクトン群集組成へと換算することにしました。データベースおよび計算方法の妥当性・信頼性の検証を進めたところ、珪藻類、渦鞭毛藻類、クリプト藻類、藍藻類、原核緑藻類の5群集のクロロフィル濃度に対する寄与推定ができると結論づけられ、また、これら以外の群集は「その他の真核植物プランクトン」として取り扱うことが可能でした。さらに、これを利用した日本周辺海域でのモニタリングでは、親潮やオホーツク海で珪藻、黒潮では原核緑藻、日本海では「その他の真核藻類」が海域を特徴付ける光合成者であるということも分かりましたが、今後、引き続きモニタリングすることで、日本周辺海域の植物プランクトン群集組成の時空間的な特徴やその変動傾向が明らかになると期待されます。

 本研究は、水産庁のスマート水産業推進事業のうち資源・漁獲情報ネットワーク構築事業によって実施しました。JFEアドバンテックを含む民間企業からの資金や資材の提供はありません。

 本研究成果は、国際的科学雑誌「PLOS ONE」に2022年2月4日にオンラインで掲載されました。計算用の参照データベース、R言語によるプログラムとともにCC BY 4.0ライセンスに基づき制限なく利用することが可能です。
 doi.org/10.1371/journal.pone.0257258

多波長励起蛍光光度計による観測で得られた1m毎の植物プランクトン群集組成とクロロフィルa濃度(実線)の例。
上記の論文の図を改変。