公表日 2021年9月30日

研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 水産工学部 水産基盤グループ 佐藤允昭ほか


 沿岸の高層魚礁周辺で環境DNA分析と魚群探知機により魚類分布を調べたところ、魚礁で周囲の地点よりも魚類の環境DNA濃度が高く、その濃度が魚群探知機で計測した魚群量と相関することがわかりました。魚礁調査にも環境DNA分析が有効と考えられます。

  日本の沿岸域では1970年代前半から政府の施策の元、漁場を作る目的で多くの魚礁が設置されてきました。これまで、設置した魚礁に集まる魚類の種組成やその生物量を調べるために、潜水による魚類観察、漁具を用いた漁獲、魚群探知機による調査が行われてきました。潜水観察や漁獲調査では魚類の種判別や密度、サイズの把握ができますが、両手法とも調査に時間がかかることや、後者は水産資源を目減りさせるという課題があります。また、魚群探知機は広範囲を短時間で調査できますが、魚種の判定が難しいという課題があります。

 近年、水中に放出された生物由来のDNA(以下、環境DNA)を手がかかりに、魚類などの水生生物の分布が調べられるようになりました。特に複数種の環境DNA濃度を同時に計測することができる定量Miseq法*という分析手法を用いることで、効率的に生物分布を調査できることが期待できます。

 本研究では、千葉県館山湾内の高層魚礁と周囲の地点で当機構調査船「たか丸」により環境DNAサンプルを取得するとともに計量魚群探知機(以下、計量魚探機)による魚類の分布調査を行いました。魚類のユニバーサルプライマー(MiFish)を用いた環境DNA分析の結果、魚類の環境DNA濃度は高層魚礁で最も高く、イサキ、マダイ、サバ類、マアジといった優占種では魚礁からの距離が離れるほどその濃度が減少するということがわかりました。計量魚探機の調査結果と比較すると、上記の優占種の環境DNA濃度は魚群量の目安となる体積散乱強度と正の相関があり、環境DNA濃度は各地点の魚群量を反映していると考えられます。これらの結果から、既存の調査手法とともに定量Miseq法による環境DNA分析を用いることで複数魚種のモニタリングを効率的に行えると考えられます。

 本研究は水産工学研究所所内プロジェクト研究予算により行いました。この研究成果は、『Scientific Reports』誌の2021年9月30日付のオンライン版に掲載されました。doi/10.1038/s41598-021-98926-51

*定量Miseq法…この手法では濃度を規定したその海域に存在しないDNA配列を内部標準として添加し、次世代シーケンサーMiseqによるメタバーコーディング(特定の分類群のDNAを網羅的に検出する手法)を行います。内部標準のDNAコピー数と検出配列数の間で検量線を作成し、この検量線を基に各魚種の検出配列数から環境DNA濃度(DNAコピー数)を定量的に推定することができます。

高層魚礁(左上)と優占魚種(右上)の写真、優占魚種の環境DNA濃度と魚礁からの距離との関係(左下)と魚群量の目安となる体積散乱強度との関係(右下)