公表日 2020年6月10日

研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 環境保全部 化学物質グループ 隠塚俊満 ほか

 漁網用防汚剤トリフェニルオクタデシルアミンボロンの海産生物への影響を検討し、毒性値から推測した予測無影響濃度(注1)と瀬戸内海の環境水中濃度を比較した所、環境水中濃度は予測無影響濃度の10分の1未満であり、現在のところ、リスクは低い事が分かりました。

 日本では、漁網用の防汚剤としてトリフェニルオクタデシルアミンボロン(TPB-18)が使用されていますが、海洋環境に及ぼすリスクの研究例は乏しく、その影響は不明のままでした。

 そこで本研究では、TPB-18の海洋生物に及ぼす影響を検討して得られた毒性値から予測無影響濃度を推定すると共に、瀬戸内海の表層水中濃度を測定し、両者を比較する事でTPB-18の海洋環境に及ぼす生態リスクを評価しました。

 海産藻類3種、甲殻類2種、魚類2種に対する急性及び慢性の毒性を検討した結果、海産藻類、特に珪藻に対する影響が最も強く、最も小さい慢性毒性値(無影響濃度(注2))として0.30 μg/Lが得られました。

 また、海産生物への急性及び慢性毒性値を収集し、種の感受性分布(注3)を作成して5%の種が影響を受ける濃度HC5を推定し、慢性毒性値から推定したHC5(59 ng/L)を安全係数10で割る事で予測無影響濃度(5.9 ng/L)を算出しました。

 さらに、2017年から2018年にかけて瀬戸内海の38地点で表層の環境水を採取して環境水中濃度を測定した所、5地点でトリフェニルボロンイオンが検出されました(<0.12–0.34 ng/L、TPB-18換算値)。この環境水中濃度は予測無影響濃度の10分の1未満であり、現在の所TPB-18の海洋環境に及ぼすリスクは低いと考えられました。

注1:水生生物への影響が表れないと予測される濃度
注2:化学物質を曝露していない区と比較して統計的に有意な影響が認められなかった最高濃度で、慢性的な毒性値として用いられる。
注3:生物種ごとの感受性の違いを統計学的分布に表現する解析手法で、定量的なリスク評価に有効である。

※本研究は、日東製網株式会社の委託事業「漁網用防汚物質 TPB-18 の海産生物に対する毒性値算出に関する試験研究」の支援を受けて実施されました。

本成果は、Marine Pollution Bulletin. 2020. 157: 111320.に掲載されております。

図.トリフェニルオクタデシルアミンボロン(TPB-18)の種の感受性分布
藻類(〇)、甲殻類(△)および魚類(+)の急性毒性値(黒線)および慢性毒性値(赤線)を基に算出。実線および破線はそれぞれ中央値および90%信頼区間を示す。