公表日 2020年6月27日

研究実施者:水産技術研究所 環境応用部門 環境保全部 有害・有毒藻類グループ 中山奈津子ほか

 日本の水産業に重篤な被害をもたらす赤潮への対策として,二枚貝を斃死させる有害プランクトンであるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマとそのRNAウイルス(HcRNAV)の特性を利用した環境に優しい赤潮防除技術の開発および現場実証試験に成功しました。

 水産研究・教育機構廿日市拠点の研究チームは漁業被害を軽減・防除することを目的として,赤潮原因藻類の一種であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(以下,ヘテロカプサ,図1 a))のみに感染するウイルス(HcRNAV,図1 b))を用いた生物学的赤潮対策の研究開発を行なっております。ウイルスを利用する利点は,感染相手が決まっているため他の水産生物には無害であること,増殖力が極めて高いので少量の散布でも効果が期待できることです。一方で,ウイルスそのものを散布することは生態系への影響や安全性・有効性などが予測しづらいなどの問題点があります。そこで,赤潮が発生した海域の海底に堆積した泥に沈殿したウイルスを「泥ごと」利用する方法を考案しました。まずは室内実験にて,HcRNAVにヘテロカプサ培養株を衰退させる効果があることを確認しました。次に,HcRNAVを含む底質をヘテロカプサ培養株に接種し,ヘテロカプサが死滅すること,ごく少量の底質でも効果があることを明らかにしました。これまでに蓄積したHcRNAVの効果を立証する基礎データを元に,新潟県佐渡市や加茂湖漁協など現場関係者と協力し,天然のヘテロカプサ赤潮に対し大規模な実証試験を行いました。2016年10月初旬、加茂湖では細胞数が1mlあたり4,000細胞に達するヘテロカプサ赤潮が発生しました。そこで,湖面にキャンバスシート製の水槽を2面設置し,これらに約15kLのヘテロカプサ赤潮海水を汲み入れ,一方にはHcRNAVを含む泥を1.3 kg接種したところ,試験開始から5日目までに泥を入れた水槽中のヘテロカプサの密度は1 %未満になりました。泥に含まれるHcRNAVがヘテロカプサ赤潮の衰退を促進するという効果を,実環境で実証したことにより,本技術の実用化への期待が高まっています。

 本成果の大部分は,平成24-28年度水産庁(赤潮関係)委託事業で得られ,基礎データの蓄積には三重県水産研究所が大きく貢献しています。

 本研究についは,Nakayama et al., 2020 “Evaluation of a virus-based control method to protect cultured oysters from the harmful dinoflagellate Heterocapsa circularisquama”として 『Aquaculture』に2020年6月27日にオンラインで公開されました*。*https://doi.org/10.1016/j.aquaculture.2020.735625

図1 a) ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ, b) HcRNAV μmは1/1000mm, nmは1/1000μm