公表日 2020年6月17日

研究実施者:水産技術研究所 養殖部門 育種部 育種基盤グループ 内野 翼ほか

 ブリのハダムシ症は、体表に付着するハダムシによる寄生虫病であり、養殖場で問題となっています。ブリにはハダムシの付きにくい(抵抗性のある)個体と付きやすい個体がいることから、両者のDNA配列の違いを調べ、ハダムシ症抵抗性に関与する新たな染色体上の領域を見つけました。

 ブリのハダムシ症は、寄生虫のハダムシ(Benedenia seriolae)によって引き起こされる寄生虫病です。この寄生虫病は成長不良や細菌感染症を引き起こすため、ブリ養殖に深刻な被害をもたらしますが、有効な防除法は限られています。そこで私たちは、DNAマーカー(個体間でDNA配列が異なる領域)を利用して、ハダムシの付きにくい個体を選抜・育種する方法(マーカーアシスト選抜育種法)により、ハダムシ症に遺伝的に抵抗性のあるブリの作出に取り組んでいます。


 本研究では、ブリ野生魚に由来する5つの交配区について、ハダムシを人為的に感染させる試験を行い、個体別のハダムシの付きにくさを評価しました。次に、ブリの染色体上に網羅的に配置されたSNPマーカー(1塩基の変異を対象とするDNAマーカー)を目印として、各交配区を解析しました。その結果、ハダムシ症抵抗性に関与する新規の染色体上の領域を4箇所発見しました。
 本研究で発見されたブリのハダムシ症抵抗性に関与する新たな染色体上の領域は、今後ハダムシ症抵抗性を制御する遺伝子の同定や、マーカーアシスト選抜育種を進める上での重要な知見として役立つものと期待しています。


 本成果は、Aquaculture. 2020. 529:15.doi: org/10.1016/j.aquaculture.2020.735622に掲載されました。

※本研究は、農林水産技術会議「養殖ブリ類の輸出促進のための低コスト・安定生産技術の開発(ゲノム情報を利用したブリ類の短期育種技術の開発)」の支援を受けて実施されました。

図1.ハダムシ症のブリ
ブリの体表に付着したハダムシの例。ハダムシに寄生されたブリは皮膚が傷つくことにより、潰瘍や成長不良を引き起こす。またブリがハダムシを落とそうとして生簀網などに体を擦ることによって傷が生じ、細菌感染症の原因となる。