公表日:2020 年 1 月 6 日

研究実施者:水産技術研究所 養殖部門 生産技術部 技術開発第3グループ 佐藤琢ほか

 クルマエビ類の移動や成長、資源構造の解明、種苗放流による資源造成効果の把握、種苗放流方法の高度化等を目的に、クルマエビを対象として、エビが脱皮しても脱落せず、そのうえ成長や生残に悪影響を与えない装着型外部標識「トラモアタグ」を開発しました。

 水産生物の移動や成長、資源量、放流効果等を把握することを目的に、個体に標識をつけて放流し、再び捕まえた際の情報を利用する「標識再捕調査」を行うことがあります。この調査は漁業者等による再捕報告を利用するため、一目見て気づくことができるような、個体の体表に標識が位置する「装着型外部標識」の使用が調査に適しています。しかし、体表に位置する装着型外部標識は、甲殻類が行う「脱皮」によって脱落することがあります。また、多くの装着型外部標識は個体を傷つけて装着されるため、生残や成長に悪影響を与えます。これらのことは甲殻類資源の標識再捕調査を行ううえで大きな問題です。

 そこで本研究では、沿岸漁業の重要な水産資源のひとつで、栽培漁業の代表種でもあるクルマエビを対象として、「脱皮によって脱落せず、そのうえ生残や成長に影響を与えない装着型外部標識」の開発に取り組みました。本研究では、まず直径1.5 mmの穴を有するシリコンゴム板を標識として作製しました(図1a)。シリコンゴムは伸縮性があるため、伸ばして穴を拡げると、穴に眼球を通すことができ、標識を眼柄に装着することができます(図1b)。この装着方法なら標識によって体を傷つけることなく、発見されやすい体外に標識を位置させることができます。稚エビを用いて飼育実験を行ったところ、本標識は脱皮によって脱落せず、本種の漁獲開始サイズを越えて保持されること、本標識は生残や成長に対して悪影響がないことが示されました。以上の結果から、本研究で開発された標識および標識方法をトラモアタグ(trans-molting retentive external eye (TRAMORE) tag)と命名され、形を洗練したトラモアタグ(図1c)は販売されることになりました。今後、本標識が多くの甲殻類資源の研究・調査に利用されることを願っています。

なお、本成果は「Fisheries Research 2020. 225: 105482」に掲載されています。また、「豊かな海 2020. 51: 7-15」でもトラモアタグが紹介されています。

図1 a)作製した装着型外部標識(シリコンゴム製), b)眼柄に標識を装着した様子, c) 販売されるトラモアタグ(例えば赤色)

トラモアタグを用いた標識放流情報(最終更新:2023年3月20日)