公表日 2019年9月25日

研究実施者:水産技術研究所 養殖部門 まぐろ養殖部 樋口健太郎 ほか

 クロマグロ(以下、マグロ)養殖の生産性向上を図るうえで、生け簀網への衝突による死亡、いわゆる衝突死が大きな問題となっています。もともとマグロは外部刺激に対して非常に敏感なため、光などに驚いた魚がパニックに陥り、生け簀網に猛スピードでぶつかることで養殖場内での衝突死が起こります(図1)。このため養殖生産者からは、養殖に適した「おとなしい」性質に改良する、いわゆる育種改良が望まれています。しかし、マグロは大型化して産卵するため、従来の手法で育種改良を行うことは極めて困難でした。そこで私たちは、新たな育種技術として脚光を浴びているゲノム編集技術を用いて、衝突死の軽減や防除が可能となる「おとなしい」マグロの開発に取り組んできました。

 本研究では、運動制御に係わるリアノジン受容体1b (ryr 1b)に着目し、その機能をゲノム編集で抑えることで、外部刺激によって生じる突発的な高速遊泳を軽減できることを見いだしました。実験では、まず受精直後のマグロ卵にゲノム編集ツールPlatinum TALENを顕微注入し、ryr 1bの異なる遺伝子領域(エクソン2及び43)をゲノム編集したマグロを作成しました。次に、別途開発した接触刺激に対する反応を定量化する手法で、これらゲノム編集マグロの行動を解析しました(図2)。その結果、ゲノム編集をしていないマグロと比較して、いずれのゲノム編集マグロもふ化後7日目の仔魚で、接触刺激を受けてから逃避行動を起こすまでの時間が遅いことが明らかとなりました(図2)。さらに、作出したゲノム編集マグロは、逃避行動時の平均遊泳速度も半分程度にまで減少していました。

 本研究から、衝突死するほど過敏な行動に至らない「おとなしい」マグロの作出が可能となりました。今後はゲノム編集技術によって、これまで膨大な労力とコスト、時間を要していたマグロの育種が急速に進むことが期待できます。さらに、作出したゲノム編集魚の普及・実用化に向けて、社会の理解・賛同を得ていくための取り組みも同時に進めているところです。

本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラムSIP(14537460)によって実施しました。

本成果は、Scientific Reports. 2019. 9:13871. doi.org/10.1038/s41598-019-50418-3. に掲載されました。

図1.マグロの衝突死
図2.ryr1bゲノム編集マグロの行動評価
ビデオ解析装置を用いた行動評価の概要を表す。右図は、ryr1b (エクソン43)をゲノム編集したマグロ仔魚における刺激後の逃避行動に至るまでの各個体の反応時間を示す。